2014-08-18

【『ミュラー展』採掘作業その1】『ピラミッド』の形のなぞを掘る。

denkyuu_40.jpg『採掘』のはじまりのきっかけ『ピラミッド』。
 
いよいよ来週末23日(土)から『MOMO夏のミュージアム ミュラー展』がはじまります。
『おもちゃの村』と呼ばれるドイツ・エルツ山地ザイフェン村で115年の歴史を持つ「ミュラー社」の木工芸品の数々がMOMOにやってきます。
『ミュラー展』をご紹介するときに、必ず登場するのがこの、『ピラミッド』という工芸品です。
三角形の形の屋根の上に冠のように羽がついています。
「これぞ!」とご紹介したくなる、とても美しい形です。

 

pyramid_shikumi.jpg

 

reddot10p.jpgピラミッドの仕組み
reddot10p.jpg
ろうそくに火を灯すことで、
温められた空気が上昇し、頂上に冠のようについているプロペラが回転して、内側の人形たちもいっしょにゆっくりと回っていきます。

 

ろうそくの本数が増えるほどはやく回転し、本数が少ないとゆっくりまわります。
ただ美しいだけでなく、こんな仕組みもあるのです。
さて、ここまでは今までも知っていることでした。
日本語のカタログにも書いてあります。
でも、私は気になってしまいました。

どうして『ピラミッド』はこういう形をしているんだろう?
question_b.jpg
単純にきれいだからかな、とか、クリスマスの飾りだからクリスマスツリーのような形なのかな?とか。
実際、クリスマスツリーが元だということが書いてある本もありました。
でも、なんだか納得できません。
『ピラミッド』には実際、クリスマスじゃないモチーフのものもたくさんあるのです。
このなぞは手元にある資料をちょっと調べるくらいではわかりませんでした。

 

じゃあ!納得できるまで調べてみよう!

 

mushimegane_b.jpg
そこからピラミッドの形、ザイフェンの歴史、おもちゃの村のはじまり、ミュラーさんの発明などなど…
どんどんどんどん調べて調べる日々がはじまってしまいました。

 

そう、まるで炭坑の街だったころのザイフェンの炭坑夫のように、
『ミュラー展』という鉱脈を掘って掘って掘り進める日々の記録です。

 

miner.jpg
採掘作業その1
『ピラミッドのかたちのなぞを掘る。』

 

mushimegane_40_b.jpg『ピラミッド』の形のなぞを探るため英語を読む。
 
ピラミッドの形のなぞを解くために、まずは輸入代理店エルフさんのカタログを読んだり、ドイツのクリスマスについて書かれている本を読んでみたりしましたが、納得のいく答えは見つけられませんでした。

 

それは、そうです。
お雛様を買う時におひな様の形のはじまりから調べるようなものです。

 

お雛様は日本の伝統的な飾りなので日本語の説明は探せばでてくると思います。
ですが、ドイツの木工芸品です。そもそもどうしてこんな形をしているのかなんて気になる人が日本にそもそもぜんぜんいないと思います。

 

MOMOでもピラミッドは10年以上前からクリスマスには必ず展示していたので、私自身も小学生の頃からピラミッドを見ていましたが、これはどうしてこんな形をしているのだろうと考えたこともありませんでした。
ですが、展示をして、展示を見に来てくれる、はじめてピラミッドを見る人たちにちゃんと説明しなければいけないな、と考えたときに、「どうしてこういう形になったのか」という部分は省略できない要素だな、とどうしても思ってしまったのです。

 

と、いうわけで、日本語で納得できる答えを発見できなかった私は原文に当たることにしました。

 

reddot10p.jpg【参考文献】ミュラーのWebサイト,2014年度版ミュラーカタログ

 

ミュラー社にはけっこう立派な公式Webサイトがあります。
muller_web.jpg

 

ミュラー社のWebサイトの「ARTICLE KNOWLEDGE」のページの文章を印刷し、わからない単語を調べながら読んでいきます。
muller_pyramid_r.jpg
 
知らない単語がたくさんあって、ミュラーとザイフェンを知るための英単語集をつくれそうです。
 
mushimegane_40_b.jpg“Originally”は”horse-driven winch”?!
 
さて、ミュラー社が『ピラミッド』について書いた文章を読んでいきます。
(Webとカタログは書いてある内容が少しちがいます。)
どちらの文章でもミュラー社がピラミッドについて強調するまず最初のことは共通しています。
「ピラミッドといえばエジプトのピラミッド、外国の国にも三角形の形の似たようなものもある。
それらのものとザイフェンの『ピラミッド』の大きな違いは、パーツが回転することです。」
そして、それはなぜなのか。こう書かれています。
“Originally,the toys-makers followed the pattern of the horse-driven winch used in mining.”
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miningは「採掘」作業のこと。どうやら『ピラミッド』のかたちの起源は鉱山の採掘作業につかわれていたという”horse-driven winch“の形から来ている、ということが書かれています!大発見!
でも、horse-driven winchってなんでしょう??辞書にはのっていません。
馬がドライブする、ウインチ??う〜ん…あ!教えてgoogle先生!
 
 
netsurfing_b2.jpgさっそく検索!
 
denkyuu_40.jpg“horse-driven winch”の発見!
 
あ!こ、これは!!
馬が支柱の周りを廻っています。しかもこの形!
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YouTubeで動画も見つけました。
実際には何頭もの馬を支柱のを廻らせるように走らせたようです。
 

鉱山は地中深くにもぐったり、地中から思い採掘したものを運んだり、そのための動力として”horse-driven winch”が欠かせなかったようです。
▷詳しくはこちらのサイトに他の写真ものっています。:http://www.tu-chemnitz.de/advent/2009/21/
さて、そしてその”horse-driven winch”こんな形をしています。
mine_01.jpg
hakken_b.jpg
これって!ピラミッドだ!!

 

見たことのある三角形!もうこれピラミッドですよね!!
 
ちなみに、horse-driven winchは日本語でなんて言うのだろうと思い、
またgogle先生に質問してみたところ、県の炭坑で馬を動力にした仕組みが使われていたことがわかり、
その鉱山では『馬絞車』と呼ばれていたようです。
馬、絞る、車。。。なんだか怖いのでMOMOでは日本語で『馬ウインチ』と呼ぶことにします。
(※更にちなみに、この仕組みを日本の炭坑に伝えたのは明治時代に日本政府に雇われてやってきたドイツの人だそうです!)
『ピラミッド』の形が『馬ウインチ』から来ていることがかなり納得できてきました。
でも、なんかもうすこしグッとくる証拠ないかなあ。。
 
mushimegane_40_b.jpgそういえば社長がザイフェンに行ってました。
 
そうなんです、社長が2013年の2月にミュラー社のあるザイフェン村に行っているのです。
何かヒントになることないかなあと、社長の撮ったザイフェンの写真を見せてもらいながら、社長にザイフェンのはなしを聞かせてもらいました。
2月に社長はミュラーではなく、同じくザイフェンに工房を構えてる『ヴェルナー社』の工房を見学させてもらっていました。
写真はヴェルナー兄弟の2番目のお兄さん。ヴェルナーさんの家族がザイフェンの歴史をまとめた本の写真を見せてもらいながらご本人からヴェルナーのこと、ザイフェンのことを聞かせてもらったそうです。
 
seffen01.jpg
 
そして社長がひとこと。「あ、そういえばこの本もらってきてるよ。」
 
え?!見たいよ!!!
 
そして、なんとその本には・・・・・
 
denkyuu_40.jpgえ?!ほんとに?!!『馬ウインチ』のピラミッド!
 
社長がヴェルナーさんにもらった本を探して見つけました。
すると、ページをめくるまでもなく、なんと!裏表紙が!!!これ!!!
 
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ザイフェンとヴェルナー社の歴史を書いた本の裏表紙が、
ピラミッドの原型である「馬ウインチ」と、馬ウインチを使って仕事をしていた炭坑夫の仕事風景をそのまま再現したピラミッドだなんて!
 
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中ページにも登場!このピラミッドはもちろんヴェルナーさんの工房で作られたものです。
あれ?牛??馬???とにかく廻ってます!
 
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三段目には鉱山で働く人々!
 
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馬ウインチと『ピラミッド』がはっきりつながった瞬間でした!
 
mushimegane_40_b.jpgヴェルナーさんはザイフェンやエルツ山地、ドレスデンの王室の歴史をミニチュアで作りました。
 
この「馬ウインチピラミッド」(MOMO勝手に命名)が載っているこの本、すごいんです。
現在、ヴェルナーの工房は3つあります。その3つの工房は兄弟の3人がそれぞれ作品を作っています。
その3兄弟のお父さん、ヴァルター・ヴェルナー氏はザイフェン村のあるドイツ・エルツ山地の歴史を木工芸でほとんど作りました!
 
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鉱山で働く人々の姿も作られています。それがまとめられたすごい本だったんです。
ヴァルター・ヴェルナー氏の作品はザイフェンのおもちゃミュージアムにも収蔵されています。
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こちらはドレスデンの更新の様子です。すごく細かくて、実物には圧倒的な存在感があるそうです。
 
denkyuu_40.jpgそんなヴェルナーさんが『ピラミッド』で鉱山のモチーフをこんなに作っている!
 
さて、そんなヴェルナーさんの本をもう1冊。
(一応ここで言っておかないとな、と思ったのですが、今回展示するのは『ミュラー社』です。)
こちの本にもありました!しかも片方は別バージョン!
 
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鉱山でのクリスマスの様子だそうです。
『ピラミッド』の形=horse-driven winch説の信憑性が最高潮まで高まっています!

 

thinking_b.jpgですが…

 

それでも、『ピラミッド』の原型が「馬ウインチ」”horse-driven winch”と言い切れない訳があるのですが、
ミュラー社のWebにも書いてあるのですが、最初の最初の『ピラミッド』は残っていないのだそうです。
(※ザイフェンで最も古く『ピラミッド』がつくられた記録は1850年。つまり、最初に作ったのはザイフェンの人ではないということ。)

 

だから、この『馬ウインチ』原型説ではない起源の可能性ももちろんあるのです。

 

denkyuu_40.jpgまとめにはいります!

 

point_b.jpg
・ピラミッドの原型は鉱山で使われていた“horse-driven winch”「馬ウインチ」の形や仕組みから来ている、というミュラー社の言葉。
・鉱山の人々の生活と深く結びついていることがわかるヴェルナーの『馬ウインチピラミッド』。
・ザイフェンの歴史を繊細な木工芸で作りあげたヴァルター・ヴェルナー氏がこのモチーフをわざわざ複数パターンつくっている。
 
 MOMOでは『ピラミッド』の原型は「馬ウインチ」説は以下の3つのポイントで結論づけたいと思います。
(あれ、この流れ、中学生のとき数学でやったことありますね。。)
 
 
sketchbook_matome_r.jpg
『ピラミッド』の形は、
ドイツの鉱山で使われていた”horse-driven winch”の仕組みや形を元に、
現在のような三角形の形になった。

 

クリスマスツリー起源説だと、
ミュラーさんも言っている「パーツが回転」するという他と全くことなるその仕組みはどこから来たんだろう、ということを解明しなければならなくなります。

 

なぜ、ツリーを、まわしたのか。。。この謎の方が深すぎる感じがします。
確かに、『ピラミッド』の形はクリスマスツリーから来てる説のほうがロマンチックです。素敵です。

 

ですが、もともと炭坑夫だった人々がつくりはじめた『ピラミッド』です。
歴史の上にちゃんと根付いている形なんだな、というほうが私は好きです。

 

さて、『ピラミッド』の形のなぞを探るうちに、他にもいろいろと『ピラミッド』のことがわかりました。

 

次回!まだまだ見つけちゃった!『ピラミッド』のこと、掘り続けます!
 
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『ミュラー展』という名の鉱脈、豊か過ぎる…
 
 
絵と文 : 茂木成美 (MOMO制作)

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